ハンドの能力の定量化

A8 のようなハンドと 87 のようなハンドではどちらが強いと言えるでしょうか。ハンドの性能をどのように定量化するか解説してみます。

ハンドの強さには色々な見方があります。ざっと考えてみただけでも、次のような要素が思いつきます。

  • 2 枚のカードのランクの強さ
  • その 2 枚のカードでできる最高の役は何か
  • 強い役ができるアウツの多さ
  • 相手のベットアクションに対する判断の容易さ
  • ブロックしている相手の強いハンドの数
  • ブロックしている相手の弱いハンドの数

エクイティ (EQ)

一般的に「ハンドの強さ」と言ったとき、それは EQ を意味します。EQ は それ以上のベットアクションがないと仮定してどれだけのポットシェアを持つか を示す値で、30% Pot EQ$12 EQ のように表します。チョップになる場合はポットを分け合いますので、たとえばヘッズアップであれば EQ は 50% となります。

EQ の高いハンドは強いハンドだと言えますが、EQ が高くても扱いにくいハンドが存在します。A8 は好例で、プリフロップ時点ではランダムハンド相手に 59% の EQ を有しています。しかしフロップで A がヒットしなければ厳しい状況に立たせられてしまいます。また、キッカーの 8 がヒットしてもそれ以上のカードでまくられてしまう可能性が否定できず、アグレッシブなアクションをしづらいハンドだと言えます。

EV

A8 のような高 EQ のハンドも相手のベットによってフォールドさせられてしまうことがあります。あるいはベットやレイズによってポットが将来的に大きくなり、最終的に本来の EQ 以上の利益を生むこともあります。こうした 将来のベットアクションを加味したポットシェア をポーカーでは EV (Expected Value) と呼びます。こちらも 30% Pot EV$12 EV のように表します。

EQ に比べて EV は計算するのが非常に困難です。 EV はゲーム理論における 利得 のことです。 ゲームツリー の経路を評価していくことで計算できますが、プリフロップやフロップなどのアーリーストリートではゲームツリーが巨大になってしまいます。 ソルバー などのツールで条件を一般化した近似値などを用いるのが一般的です。

EQR (エクイティ具現性)

EQ と EV が違う理由を言い換えると、ベットアクションによって EQ として存在するはずのポットシェアが最終的に現実のものになるとは限らないからです。相手のベットにフォールドさせられてしまったり、逆にこちらのブラフベットによって相手をフォールドさせて EQ 以上のポットを獲得できることもあります。EQ どおりのポットを獲得することを エクイティ具現 またはエクイティ実現と呼び、その蓋然性を EQR という指標で表現します。

EQ を QQ 、 EV を VV としたとき、EQR RRR=VQR = \frac{V}{Q} と数値化できます。EQ のわりに EV が低いというのは本来の EQ の具現蓋然性が低いということで、逆に EQ が低いわりに EV が高いのは具現されるべき EQ 以上のポットシェアを獲得できるかもしれないということです。

ポジションとスタックが与えるEQRへの影響

EQR はベットやレイズによって向上し、チェックやコールによって低下する傾向にあります。 これはバリューベットはポットを膨らませることでハンドの EQ を増幅させ、ブラフベットは相手をフォールドさせることで自分のハンドのEQを相対的に上昇させるためです。こうした理由から、ベット機会の多い IP のプレイヤーは EQR が高くなりやすく、OoP のプレイヤーほど EQR が低くなりやすいです。これはポジションの利点を示す一つの理由だと言えます。

また、エフェクティブスタックがショートであるほどEQRの変動幅は小さくなり、ディープであるほど変動幅が大きくなります。エフェクティブスタックがショートであれば、どこかのストリートでオールインしてしまう可能性があり、言い換えるとベット回数に上限があるのです。ディープスタックではそういった心配がなくなるわけです。

EQR の高いハンドと低いハンド

87 のようなスーテッドコネクターや A5 のような A ロースーテッドなどの EQR は高くなりやすいです。どちらもナッツ級のハンドが完成するポテンシャルを有しており、完成後に大きなサイズのバリューベットができるだけでなく、ブラフベットに利用される状況も多いのです。本来のEQはともかく、ベットやレイズに多く利用されるハンドというのはEQRが高くなります。

逆に、A8 のような中途半端なハンドは EQ のわりに EV と EQR が低くなりやすいです。ボードの 8 がヒットしてもより高ランクのペアに捲られやすく、フラッシュやストレートのようなナッツ級のハンドも完成しにくいです。こうしたハンドは均衡戦略ではチェックやコールを主体にしたプレイングが多くなります。消極的なプレイに向いたハンドというのはEQRが低くなりやすいのです。