レンジアドバンテージとその転遷
ハンドレンジの強さを比較するにはどうしたらいいか、そしてそのアドバンテージがどのようにアクションの決定に関わるのか見てみます。
あるスポットにおいて、ボードマッチやレンジ分割によってより強いレンジを持っていると考えられることを レンジアドバンテージを有している と表現します。昨今ではレンジアドバンテージは2つの要素に分解して考えられるのが一般的で、一つが「エクイティアドバンテージ」、もう一つが「ナットアドバンテージ」です。
このページでは有効スタック 100BB、6-maxでの UTG のプレイヤーによる 2.5BB レイズに対して BB のプレイヤーがコールしたポストフロップでの状況をもとに 2 人のレンジとそのエクイティを見比べる形でレンジアドバンテージを理解していきます。
両者のレンジの戦略は GTO Wizardのものを参考にしており、次のようなスターティングハンドレンジでプレイしている前提で話を進めます。
UTG のレンジ
BB のレンジ
エクイティアドバンテージ
次のチャートはUTG (黄) の 2.5BB オープンに対してBB (緑) がコールした後、フロップが A72 になったときの2人のエクイティを表したものです。X軸でハンドの種類をEQ順に並べ、Y軸でそのEQ帯のハンドをどれだけ所持しうるかという割合を示しています。最右に位置するのはナッツハンドとなる AA で、最左に位置するのは両者のハンドレンジに存在しうる中で最弱のハンドとなる Q6 です。
UTG のプレイヤーのレンジには高 EQ 帯のハンドが非常に多く、所持しているハンドの分布を見比べた時に UTG のプレイヤーのレンジは BB のプレイヤーのレンジよりも右 (高 EQ 側) に多く分布していることがわかります。事実、レンジ同士のエクイティを計算してみると UTG は 58.3% 、BB は 41.7% です。こうしたレンジ全体でのエクイティ有利を エクイティアドバンテージ と呼びます。
エクイティアドバンテージを有しているプレイヤーはストリートでの主導権を握ることになります。多くの場合はプリフロップをレイズで終えたアグレッサーがエクイティアドバンテージを有することになり、バリューとブラフを混ぜた一定のレンジでコンティニュエーションベットをすることで、次のような利益を生み出します。
- ナッツ帯のハンドでポットを膨らませ、最終利得を大きくする。
- バリュー帯のハンドにおいて、相手の薄いドローハンドをフォールドさせてエクイティをプッシュする。
- ブラフ帯のハンドにおいて、相手のマージナルハンドをフォールドさせてエクイティを否定する。
フロップの状況によってはコーラーにエクイティアドバンテージが与えられることもあります。同様の条件でフロップのボードが 765 になった場合を見てみます。
先ほどの例ほどではないものの、今度は BB のプレイヤーのレンジが UTG のプレイヤーのレンジよりもやや少し右に分布しています。両者のエクイティは UTG のプレイヤーが 45.3% 、BB のプレイヤーが 54.7% と、今度はコーラーである BB のプレイヤーがエクイティアドバンテージを握っていることがわかります。
こうしたボードでは BB のプレイヤーが主導権を握っているので、コーラーでありながら均衡戦略での初手はほぼ必ずベット (ドンクベット) することになります。
ナットアドバンテージ
さて、次のチャートは同じように UTG (黄) の 2.5BB オープンに対して BB (緑) がコールした後、フロップが A65 になり、 BB のプレイヤーのチェックに対して UTG のプレイヤーがポットの をベット、BB のプレイヤーがコールして、ターンの 4 によってボードが A654 になったときの2人のエクイティを表したものです。
GTO Wizardを参考にして次のような均衡戦略で各プレイヤーはフロップをプレイした前提で話を進めます。
- BB のプレイヤーの初手
- 相手のストレートドローをブロックするワンペアとなる 64 54 53 43 のようなハンドは高頻度でドンクベット
- ガットショットストレートドローになる 98 97 87 も高頻度でドンクベット
- フラッシュが完成する2枚のクラブのハンドはいずれも中頻度でドンクベット
- それ以外の多くのハンドは低頻度のドンクベットかチェック
- ドンクベットのサイズは ポットの
- BB のチェック後の UTG のプレイヤーの動き
- ミドルセット、ローセットやボトムツーペアとなる 66 55 65 などは必ずベット
- K や Q を含み、キッカーが 7 以上のハンドは高頻度でベット
- 強い A ヒットとなる AA AK AQ AJ A6 A5 といったハンドで中頻度でベット
- K や Q を含み、キッカーが 7 以上の強いものから中頻度でベット
- それ以外は低頻度のベットかチェック
- ベットサイズは ポットの か から選択
- UTG のベットに対する BB のプレイヤーの動き
- フラッシュが完成する2枚のクラブのハンドやセットではコールまたは低頻度でのレイズ
- ガットショットストレートドローになる 98 97 87 といったハンドや、相手のストレートドローをブロックするワンペアとなる 96 85 75 64 53 43 のようなハンドはコールまたは低頻度でのレイズ
- セットでないポケットペアはクラブを含む場合は必ずコール
- A ヒットと QQ のような強いワンペアや、K6 Q6 のようなミドルヒットグッドキッカーは必ずコール
- K Q を含み、キッカーが 7 以上のハンドは必ずコール
- それ以外はフォールド
チャート最右端のナッツ帯の分布を見たとき、UTG のプレイヤーのハンドは非常に多く存在していることがわかります。このような「相手よりも多くナット帯のハンドを持ちうる」という状況有利を ナットアドバンテージ と呼びます。大きなナットアドバンテージを持つプレイヤーは、小さなサイズのベットよりも大きなサイズのベットを選択することが多くなります。
BB のプレイヤーはフロップでのコールレンジの大半がクラブのカードを含むハンドで構成されていますが、それでも上位のクラブを含むようなナット帯のハンドをより多く持っているのは UTG のプレイヤーなのです。
UTG のプレイヤーがターンで大きなサイズのベットをしたとき、BB のプレイヤーにとっての関心は「相手がどの強さのフラッシュを持っているのか」と「そもそも本当にフラッシュなのかどうか」です。BBのプレイヤーは弱いフラッシュまで含めたほぼ全てとトリップス、ツーペアでコールすることになります。ナッツ帯のハンドがターゲットにするのはこうした EQ がある程度高いハンドですので、ポットオーバーのような大きなサイズのベットにもコールして貰えるわけです。また、同時にブラフベットにおいて相手の弱いフラッシュやツーペアでのコール/フォールドを無差別にするためにも、プレッシャーをかけてMDFを上げるような大きなベットサイズが必要になります。
このような形で、ナットアドバンテージは強いベットアクションの頻度に影響する と言えます。オーバーポットのベットのような強いベットアクションがとれれば高 EQ ハンドのバリューやブラフベットでのフォールドエクイティを高め、EQR を増加させるので有利に働くわけです。
ハンドレンジの分類
ここで、ポーカーを学んでいると頻出する「リニアレンジ」「ポラライズドレンジ」「コンデンスドレンジ」という3種類のレンジについて、レンジアドバンテージを絡めて理解してみます。
線型レンジ (リニアレンジ)
シンプルに EQ (あるいは EV) の高いハンドから順番にレンジに含めていったようなレンジです。ナットアドバンテージとエクイティアドバンテージをどちらも有していて、いわゆる「バリュー過多」の状況です (悪いことではなくラッキーです) 。
両極化レンジ (ポラライズドレンジ)
ナット帯のハンドと低 EQ 帯のハンドが多く、両極化しているレンジです。大きなナットアドバンテージを有しているものの、エクイティアドバンテージはほとんどないような状況がこのレンジになります。
凝縮化レンジ (コンデンスドレンジ)
高-中程度のEQのハンドで多く構成され、レンジのエクイティは相手とほぼ互角なもののナットアドバンテージのないレンジが凝縮化レンジです。
レンジアドバンテージの逆転
レンジアドバンテージはボードマッチによってどのプレイヤーが有するかが違います。プレイヤーのレンジに多く分布するハンドと強くマッチするボードはレンジアドバンテージを与えてくれますし、有利状況が変わらないようなラグはレンジアドバンテージにさほど変化をもたらしません。
ではもう一つのパターンとして、レンジアドバンテージが逆転する例を見てみます。これまでと同様に有効スタック 100BB 、6-maxでの UTG のプレイヤー (赤) の 2.5BB オープンに対して BB のプレイヤー (緑) がコールしたとして、フロップが KK6 の場合です。2 人のレンジの EQ をチャートで表してみます。
ナットアドバンテージもエクイティアドバンテージも UTG のプレイヤーが有しています。どちらも差は絶大で、UTG のプレイヤーはレンジの99.9%の頻度でベットすることになります。
さて、UTG のプレイヤーは実際にポットの のベットをし、 BB のプレイヤーがコールしました。ターンのカードは 6 で、ボードは KK66 となりました。この時の両者の EQ をチャートで見比べてみます。
EQ の分布に大きな変化が起きてしまいました。ナッツ帯のハンドをより多くを持っているのは今や BB のプレイヤーで、各プレイヤーのレンジ EQ は UTG のプレイヤーが 47.5% 、BB のプレイヤーが 52.5% と、エクイティアドバンテージも BB のプレイヤーに移ってしまっています。エクイティアドバンテージもナットアドバンテージも有する BB のプレイヤーは、このスポットでは均衡戦略としてレンジの 80.1% の頻度でドンクベットすることになります。
なぜここまで劇的な レンジアドバンテージの逆転 が起こってしまったのでしょう。これには、各プレイヤーのフロップでの戦略 ― とくに BB のプレイヤーのコールレンジがボードと強くマッチしていることが関係します。
BB のプレイヤーがフロップでの UTG のプレイヤーの ポット にコールするのは、主に K 6 を含むあらゆるカードとすべてのポケットペア、そして AQ AJ QJ のようなハンドです。これだけでハンドレンジの 50% 近くを占めるので、コールしたレンジの大半がターンの 6 によってナット級のハンドに成長するのです。
ボードのダイナミシティ
このように、ポストフロップ以降ではレンジアドバンテージが入れ替わりやすいボードとそうでないボードがあります。レンジアドバンテージの逆転が起こりやすいものを ダイナミックなボード と、あまり逆転しないものを スタティックなボード と表現します。
フロップでのボードのパターンを分類し、そのうちよく起こるものを一つずつ見ていきます。
ペアボード
例 : KK5
フロップ時点ではペアになっているランクが A K Q J などの高ランクあればアグレッサーのトリップスが充分に多いためにアグレッサー有利です。K88 など、ペアになっているのがミドルランクになるとコーラー側にナットアドバンテージが移り、ドンクベットを選択する誘引を生みます。ペアではない3枚目のカードはエクイティアドバンテージに影響し、A K などであればアグレッサーに与えるエクイティアドバンテージが大きくなります。
フルハウスが作れる関係上、ターン以降のカードでもう一度レンジアドバンテージの逆転が起こる可能性があります。たとえばターンの A などはアグレッサーの AA をフルハウスに成長させます。
モノトーン
例 : Q82
フラッシュができる組み合わせのうち、ブロックされているものが少ない方がナットアドバンテージを手にします。Q82 のようなボードはアグレッサーへのブロッカーが少ないため強いナットアドバンテージを与える結果になります。A を含む場合はアグレッサーのレンジへの強いブロッカーになるためプレイヤー間のナッツレンジの差が小さくなり、アグレッサーからナットアドバンテージが失われます。
モノトーンボード自体はエクイティアドバンテージにあまり影響を与えません。ボードにあるランクどおりのエクイティアドバンテージを各プレイヤーに与えることになります。ですがエクイティアドバンテージを有していないプレイヤーにもコールへのより強い誘引を与えるため、ターンやリバーまでもつれ込むことが多くなります。
ターン以降で4枚目の同スートのカード (例: J) がランアウトすると、それまでナットアドバンテージを有していたプレイヤーのハンドレンジが両極化され、ナットアドバンテージがより強くなります。反面、コールしていたプレイヤーにとってはエクイティアドバンテージがより支えられることになりハンドレンジが凝縮化されます。
ツートーン
例 : Q82
ツートーンはそれ単体ではあまり大きなレンジアドバンテージの逆転をもたらしません。カードのランクどおりのエクイティアドバンテージを各プレイヤーに与えます。
フロップのカードすべてがミドルランクからローランクで構成されている時はナットアドバンテージを持つのはコーラーのプレイヤーになりますが、それでもコーラーのプレイヤーのドンクベットの誘引になるほど強い逆転ではありません。
コネクテッド
例 : 987
ストレートは完成しても相手にフラッシュやフルハウスのアウツがある状況が多いため、通常よりもドンクベットやレイズの誘引が強くなります。ミドルからローランクで構成されたコネクテッドはコーラー側に有利で、ナットアドバンテージとエクイティアドバンテージの両方を与え、いくつかのハンドでドンクベットを選択させることになります。J 以上のカードを含むコネクテッドはレンジアドバンテージの逆転を起こしません。
ターン以降で4枚目のコネクテッドカードがランアウトすると、それまでナットアドバンテージを有していたプレイヤーのハンドレンジが両極化されます。それ以外はカードのランクどおりのエクイティアドバンテージをプレイヤーに与えることになります。